新人営業として商談に臨むとき、「何をメモすればいいのか」「話を聞きながらメモを取るのが難しい」と悩む人は少なくありません。実際、商談の場でメモを取るスキルは単なる記録作業ではなく、相手の信頼を得る武器にもなります。
しかし多くの新人営業は、「メモを取ること」に意識を取られすぎて、本来最も大事な相手の意図を理解する力を失ってしまいがちです。そこで本記事では、商談中に相手の信頼を損なわず、むしろ信頼を勝ち取るメモの取り方を徹底解説します。
営業現場で即使える実践的なメモ術から、商談後に成果を最大化するための整理方法まで、プロの視点で詳しく紹介します。
営業におけるメモの本質とは
新人営業がまず理解すべきなのは、メモは単なる記録ではなく、商談の武器であるということです。
多くの新人が「とりあえず全部書こう」として、会話を聞き逃したり、顧客の表情を見落としたりします。ですが、営業のメモは「すべてを書く」ものではなく、「価値を拾う」ためのツールです。
メモを取る目的を明確にする
営業メモの目的は、主に次の3つに分かれます。
| 目的 | 内容 | 重要度 |
|---|---|---|
| 理解 | 顧客の課題・要望を正確に把握する | ★★★★★ |
| 信頼 | 顧客に「しっかり聞いてくれている」と印象づける | ★★★★☆ |
| 活用 | 商談後の提案資料や次回アクションに活かす | ★★★★★ |
目的を意識せずに書くメモは“後で読まれないノイズ”になります。
たとえば、相手が「予算はまだ確定していない」と言ったとき、ただ「予算未定」と書くだけでは意味がありません。
「予算未定(来月中に上長決裁予定)」と、“次の動き”が見える形で記録することが重要です。
メモは「記録」ではなく「構造化」
プロの営業は、メモを取るときにすでに頭の中で情報を整理しています。
相手の発言をただ書くのではなく、以下のように分類しておくと、後で提案書を作るときにも役立ちます。
| 項目 | 記入内容の例 |
|---|---|
| 課題 | 業務効率が悪く人件費がかさんでいる |
| 背景 | 現場のシステムが古く、データ共有に時間がかかる |
| 感情 | 「現場が疲弊していて困っている」と強調 |
| 目標 | 3か月以内に改善策を導入したい |
| 次アクション | 11月中に見積りを提出予定 |
このように整理されたメモは、商談後の報告・提案・チーム共有など、すべての営業活動の土台となります。
新人営業がやりがちなメモの失敗例と改善法
営業メモの重要性を理解していても、実際の商談で正しくメモを取れている新人はほとんどいません。
なぜなら、ほとんどの人が「記録すること」に集中しすぎて「会話の流れ」や「顧客心理」を読み取れていないからです。
ここでは、ありがちな失敗例と、それを克服する具体的な方法を紹介します。
失敗例① 相手の言葉を“逐一”書き写してしまう
これは最も多い失敗です。
「相手の言葉をすべて残しておこう」という気持ちは分かりますが、それでは“聞き手”ではなく“書記”になってしまいます。
商談中に必要なのは、「何が本質的な課題なのか」をつかむことです。
相手の発言をそのまま書くのではなく、要約して“意味を抽出”しましょう。
改善法
- 相手の話を「5W1H」で整理してから書く
- 特に「Why(なぜ)」と「What(何を求めているか)」を意識
- 重要な数字・時期・人名は省略せず正確に記録
失敗例② メモを取る姿勢が“信頼を下げる”
意外に多いのが、メモの取り方そのものが印象を悪くするケースです。
たとえば、下を向きすぎて目線が合わない、ペンを走らせる音がうるさい、ノートを何度もめくるなど。
これらはすべて、「この人、話を聞いてないな」と思われる要因になります。
改善法
- 顧客の発言を一度聞き終えてから短くまとめて書く
- 要点をメモするタイミングを「間(ま)」で取る
- 顧客が重要そうな部分を話すときは、手を止めて相槌を打つ
失敗例③ 後で読んでも分からないメモ
商談直後は覚えていても、2日後に読み返したときに「これ何のこと?」となるケースは非常に多いです。
この原因は、「その場の自分にしか分からない書き方」をしていること。
改善法
- 名詞だけでなく「動き(動詞)」を残す
例:「検討」→「上司に共有して来週社内で検討予定」 - 具体的な数値・時期・担当者を必ず書く
- メモを取った当日中に“再整理”する時間を5分設ける
失敗例④ メモを取らない「聞いてる風営業」
たまに「全部頭に入ってます」と言い張るタイプの新人もいますが、これは大きなリスクです。
商談中の情報量は膨大で、しかも相手の一言に“次の提案のヒント”が隠れていることもあります。
メモを取らない営業は、次の打ち合わせで「前回も同じ話しましたよね」と言われる危険があります。
改善法
- 商談の最初に「念のため記録を取らせていただきます」と一言添える
- 会話の流れを止めないため、キーワードだけ先に記録して後で補足
- 商談後に整理して「再現性のあるメモ」に変換する
このような失敗を防ぐには、単に「速く書く」よりも、「正しく聞いて、必要なことを選ぶ」力を鍛えることが大切です。
商談で信頼を勝ち取るメモの取り方の実践テクニック
メモを取る行為は、単なる情報収集ではなく、信頼構築のプロセスでもあります。
商談中のあなたの“姿勢”と“書き方”が、顧客に「この人は誠実だ」と思わせるか、それとも「なんとなく頼りない」と思わせるかを左右します。
ここでは、プロ営業が実践している信頼を得るためのメモ術を紹介します。
メモを取るタイミングをコントロールする
相手が話している最中にずっと書いていると、「ちゃんと聞いてない」という印象を与えてしまうことがあります。
一方で、全く書かないのも「やる気がない」と受け取られます。
重要なのは、「聞く」→「書く」→「確認する」というサイクルを意識することです。
実践ステップ
- まずは聞く
顧客が話している間は目線を合わせ、うなずきながら理解を深める。 - 区切りで書く
話が一段落したところで、要点を素早くメモ。 - 確認する
「つまり〇〇ということですね」と復唱して、相手の意図を正確に把握。
このサイクルを繰り返すことで、会話のリズムを崩さずにメモを取ることができます。
メモは「相手の言葉」で残す
商談の中で最も大切なのは、相手の使った“言葉”をそのまま残すことです。
営業の提案で最も響くのは、「自分の言葉で説明する」よりも「相手の言葉を返す」ことだからです。
たとえば顧客が「スピード感が大事なんです」と言ったなら、提案資料にも「スピード感を重視したサポート体制を提案」と書く。
こうすることで、相手の頭の中にある価値観に寄り添う提案ができます。
メモで残すべき“言葉”の例
| 顧客の発言 | 残すべきキーワード |
|---|---|
| 「現場の声が経営に届かない」 | 現場との情報断絶、ボトルネック |
| 「決裁までに時間がかかる」 | 意思決定スピード、社内稟議フロー |
| 「コスト削減が最優先」 | コスト意識、ROI、費用対効果 |
メモを“見せる”ことで信頼を可視化する
メモは、あえて顧客に“見せる”使い方もあります。
たとえば、商談中に「ここは重要ですよね」と言いながら強調して書き込む。
その仕草自体が、「この人は自分の話をちゃんと理解している」と伝える非言語コミュニケーションになります。
また、商談の終盤で「確認ですが、本日のポイントはこの3点ですね」とメモを見せながらまとめると、誤解を防ぎつつ信頼を強化することができます。
メモの「形式」を整えるだけで印象が変わる
新人営業の多くが見落としがちなのが、メモの“見た目”の重要性です。
乱雑な字や余白のないノートは、顧客からの印象を悪くします。
逆に、整ったメモは「この人は仕事が丁寧だ」と感じさせる効果があります。
理想的なメモ構成例
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 日付・会社名 | 例:2025年10月28日 株式会社ABC |
| 担当者・役職 | 部長 田中様 |
| 現状 | システム老朽化で工数増加 |
| 課題 | 社内データ共有が遅い |
| 提案ポイント | クラウド化による工数削減 |
| 次回アクション | 11月5日に再提案予定 |
このように構造化しておくことで、商談後の報告や資料作成にもスムーズに活かせます。
信頼を得るメモは「話を聞く力」がすべて
結局のところ、商談で信頼を得るメモとは、相手の話を“聴く姿勢”が表れているメモです。
「相手の感情を記録する」「言葉の裏を読む」「本音をつかむ」など、メモを通じて相手を理解する努力が、結果的に提案の質を上げます。
メモ力=聞く力×構造化力
この式を意識すれば、どんな商談でもブレない軸を持つことができます。
商談後に成果を最大化するメモ整理術
商談で取ったメモは、“整理して初めて武器になる”ものです。
現場での生メモを放置してしまうと、ただの記録の山に終わってしまいます。
プロの営業は、商談後の5〜10分を使ってメモを“提案の種”へ変換しています。
ここでは、商談後に成果を最大化するための整理術を紹介します。
ステップ① メモを「一次情報」と「解釈情報」に分ける
商談直後に最初にやるべきは、メモの内容を事実と自分の解釈に分けることです。
これをやらないと、「自分の思い込み」で提案をしてしまい、顧客の意図とズレるリスクがあります。
整理のコツ
| 分類 | 内容の例 | 書き方のポイント |
|---|---|---|
| 一次情報(事実) | 「導入コストがネック」「社内稟議に時間がかかる」 | 客観的な発言・数字をそのまま記録 |
| 解釈情報(自分の気づき) | 「上司決裁に苦戦している」「スピード重視の文化」 | 推測ではなく根拠のあるメモにする |
事実と解釈を分けることで、冷静な提案構築が可能になります。
ステップ② 「3分類」で商談を再構築する
メモを整理するときにおすすめなのが、以下の3分類です。
| カテゴリ | 内容の焦点 | 活用例 |
|---|---|---|
| 顧客の課題 | 顧客が「困っていること」 | 提案の中心軸になる |
| 顧客の感情 | 顧客が「何を大事にしているか」 | 提案のトーンを決める |
| 顧客の行動 | 顧客が「次にどう動くか」 | 次回アクションの設計に使う |
この3つを明確に整理しておくと、次の商談で「前回の会話をしっかり理解している」という印象を与えられます。
ステップ③ “再現性のある形”でチーム共有する
メモは、チーム全体で活かすことが営業の質を底上げする鍵です。
個人の頭の中にだけ情報がある状態では、組織としての営業力は伸びません。
共有のポイント
- メモを「要約+インサイト(気づき)」の形でSlackやCRMに投稿
- 社内共有フォーマットを統一(例:「現状」「課題」「提案仮説」「次アクション」)
- 特に良い商談メモは、他の新人への“教材”として再利用
営業組織は「メモの質」で強くなると言っても過言ではありません。
共有文化が根付くと、提案の一貫性とスピードが格段に上がります。
ステップ④ メモを“提案の設計図”にする
整理したメモは、次の提案資料の設計図として使いましょう。
たとえば、メモの中の「課題」→「背景」→「理想像」を抜き出せば、それがそのまま提案ストーリーになります。
メモから提案書を作る流れの例
| メモの項目 | 提案書での展開 |
|---|---|
| 課題:社内共有に時間がかかる | 問題提起パートに反映 |
| 背景:各部署でシステムがバラバラ | 根本原因の分析パートに反映 |
| 理想:全社員がリアルタイムで状況共有 | ソリューション提案パートに反映 |
商談メモ=顧客の言葉を使った提案設計図と考えれば、提案書の完成度も自然に上がります。
ステップ⑤ 次回商談前に“前回メモの復習”をする
最後に忘れてはいけないのが、次回商談の前に前回メモを復習すること。
メモを読み返しておくことで、前回の会話の流れや顧客の価値観を瞬時に思い出せます。
この「準備の精度」が、商談成功率を大きく左右します。
効果的な復習のポイント
- メモを「一言要約」で見返す(例:「課題:社内共有が遅い」)
- 前回の課題に対して「自分の提案はどう応えられるか」をメモ上で追記
- 商談開始前にメモをチラ見して会話の“入り口”を決める
このように、商談後のメモ整理を徹底することで、単なる記録が成果を生むデータ資産へと変わります。
まとめ メモ力は営業力を底上げする最強スキル
新人営業にとって、商談でのメモは単なる記録ではありません。
それは、顧客理解の証であり、信頼を積み重ねるための武器です。
今回紹介したように、メモを取る目的を明確にし、相手の言葉を的確に残し、商談後に整理・共有まで行うことで、
営業活動全体の精度とスピードが格段に向上します。
営業の現場で結果を出す人は、例外なく「メモを制する人」です。
聞く力・書く力・まとめる力、この3つを磨くことが、商談成功の最短ルートになります。
明日からの商談で、ぜひ「ただのノート」ではなく「成果を生むメモ」を意識してみてください。
小さな習慣の積み重ねが、確実にあなたの営業スキルを次のレベルへと引き上げます。

