営業職に就いて間もない新人にとって、最も緊張する瞬間のひとつが「クレーム対応」です。
顧客からの怒りや不満の電話を受けたとき、頭が真っ白になってしまった経験がある方も多いでしょう。
しかし、クレーム対応は営業にとってピンチではなくチャンスです。
正しく対応すれば、怒っていたお客様があなたの“信頼ファン”に変わる可能性さえあるのです。
本記事では、
- 新人営業がやりがちなクレーム対応のNG行動
- 状況別に使えるクレーム対応の「台本」例
- 感情を落ち着かせ、信頼を回復するための実践テクニック
を、営業現場のリアルなケースを交えて解説します。
読むだけで、明日から「クレームが怖くなくなる」。
そんな“再現性のある対応力”を身につけるための記事です。
クレーム対応が苦手な新人営業が陥る3つの誤解
まず最初に、新人営業がクレーム対応を苦手とする“根本的な理由”を整理しましょう。
実は多くの人が、クレーム対応そのものを誤解しているのです。
ここでは、営業現場で特によくある3つの誤解を紹介します。
① 「クレーム=自分の失敗」と思い込んでしまう
クレームを受けると、多くの新人は「自分が悪い」と思い込み、萎縮してしまいます。
しかし実際には、クレームのすべてが営業個人の責任ではありません。
商品の仕様、納期、社内連携のミスなど、構造的な原因がほとんどです。
大切なのは「責任の所在」を探すことではなく、
“顧客の感情をどう受け止め、どう次の行動につなげるか”です。
② 「まず謝ればいい」と思ってしまう
謝罪はもちろん大切ですが、形だけの謝罪は逆効果になることがあります。
お客様が本当に求めているのは、
「自分の不満を理解してくれる人」「誠実に向き合う担当者」です。
つまり、単なる「申し訳ありません」よりも、
“共感→原因確認→解決提案”の流れが重要です。
たとえば、以下のような違いがあります。
| 悪い対応例 | 良い対応例 |
|---|---|
| 「申し訳ありません。すぐ確認します。」 | 「ご不便をおかけして申し訳ありません。〇〇の点でご不快に感じられたのですね。原因を確認のうえ、すぐご連絡いたします。」 |
謝罪+共感+具体的アクションが揃って初めて、顧客は「聞いてもらえた」と感じるのです。
③ 「感情的なお客様には何を言っても無駄」と諦めてしまう
感情的な顧客を前にすると、多くの新人が「怒られている=もう終わり」と感じます。
ですが、実は怒ってくれるうちはまだ関係が切れていないということです。
本当に関係が終わるのは、「何も言わずに離れていく」時です。
クレーム対応の本質は「感情の処理」です。
怒りや不満の裏には、期待していたのに裏切られたという感情があります。
この感情を正しく扱うことができれば、
信頼回復どころか、顧客ロイヤル化のチャンスに変わるのです。
【チェックリスト】あなたのクレーム対応、どのタイプ?
| タイプ | 特徴 | 改善の方向性 |
|---|---|---|
| 防御型 | 言い訳が多くなる | まずは受け止め、共感を優先 |
| 萎縮型 | 謝るだけで終わる | 行動提案まで伝える |
| 放置型 | 「上司に報告します」で終了 | 対応の主体性を持つ |
| 成長型 | 原因→改善→再発防止を提案 | 顧客との信頼構築が進む |
新人営業が「成長型」に進化するための第一歩は、
“怖い”から“分析する”へ視点を変えることです。
クレーム対応で信頼を回復する5ステップ
クレーム対応をうまく乗り切る新人営業は、例外なく「順序」にこだわっています。
感情的になっているお客様に対して、間違った順番で対応すると、火に油を注ぐような結果になってしまいます。
ここでは、営業現場で実際に成果を上げている5ステップの対応プロセスを紹介します。
① 【傾聴】まず“最後まで聞く”
最初にすべきことは、相手の話を遮らずに聞くことです。
新人ほど焦って「説明」や「弁解」をしてしまいますが、これは最悪のNG行動です。
お客様の怒りは、「自分の話を聞いてほしい」というサイン。
途中で口をはさむと、信頼を完全に失ってしまいます。
コツ:
- 相づち(「おっしゃる通りです」「確認させてください」)を入れる
- メモを取りながら聞く姿勢を見せる
- 最後まで聞いたら「まとめ」を返す(例:「つまり〇〇という点にご不満があるのですね」)
② 【共感】感情を受け止める
クレームの8割は、感情の問題です。
つまり、商品やサービスの問題ではなく、「扱われ方」に対する不満。
ここでの目的は、「理解してくれている」とお客様に感じてもらうことです。
例文:
「ご不快な思いをさせてしまい、本当に申し訳ありません。〇〇の件でご不安になられたのですね。」
「申し訳ありません」だけで終わらず、相手の感情を言語化して伝えるのがポイントです。
③ 【原因確認】事実関係を整理する
共感したあとは、冷静に原因を確認するフェーズに入ります。
このとき大切なのは、“責任の所在”ではなく“原因の把握”です。
質問例:
- 「〇〇のタイミングでこのようなことが起きたのですね?」
- 「具体的にはどの部分でお困りでしたか?」
- 「当社の対応で不足していた点はありましたか?」
この段階では、決して言い訳をしないこと。
あくまで「事実を整理する姿勢」で臨むことが信頼回復の土台になります。
④ 【提案】解決策を提示する
原因を把握したら、次は代替案・補償・再発防止策などの“具体的提案”です。
新人のうちは権限の範囲が限られますが、
それでも「どうすればお客様が納得できるか」を考え、選択肢を提示する姿勢が大切です。
| 状況 | 対応案の例 |
|---|---|
| 納期遅延 | 「最短で〇日にお届けできるよう手配いたします」 |
| 商品不備 | 「すぐに交換品をお送りし、確認後ご連絡いたします」 |
| 価格トラブル | 「ご説明不足でした。改めてご説明し、次回ご提案内容を見直します」 |
大切なのは、「動きます」だけでなく“いつ・どう動くか”を明示することです。
⑤ 【フォロー】事後連絡で信頼を取り戻す
クレーム対応の真価は、「対応後」に現れます。
解決策を伝えた後、フォロー連絡を必ず行うことで、顧客の印象が180度変わることもあります。
フォロー例文:
「先日お話しした件、対応が完了しました。ご不便をおかけしましたが、その後問題はございませんでしょうか?」
この一言で、「最後まで見てくれる人」という信頼が生まれます。
フォローこそ、“一時の不満を長期の信頼に変える”営業の最終スキルです。
【まとめ表】5ステップで整理するクレーム対応の流れ
| ステップ | 行動 | 目的 |
|---|---|---|
| ① 傾聴 | 最後まで話を聞く | 感情を吐き出してもらう |
| ② 共感 | 感情を受け止める | 心の壁を下げる |
| ③ 原因確認 | 事実を整理する | 冷静な解決準備 |
| ④ 提案 | 解決策を提示 | 再発防止・信頼回復 |
| ⑤ フォロー | 事後確認を行う | 顧客ロイヤル化 |
このプロセスを踏むだけで、新人でも“安心感のある対応”ができる営業になれます。
状況別に使える新人営業向けクレーム対応台本集
ここからは、実際の営業現場でよくあるクレーム場面別の台本(トークスクリプト)を紹介します。
新人でもそのまま使えるよう、「初動対応」→「原因確認」→「再提案・フォロー」の流れで整理しました。
目的は、“その場しのぎ”ではなく、顧客との関係を再構築する対応力を身につけることです。
① 商品やサービスに不具合があった場合
状況
納品した商品や提供したサービスに不備があり、顧客から不満の電話を受けたケース。
台本例
顧客:「この前頼んだ商品、ちゃんと動かないんだけど!」
営業:「ご不便をおかけして申し訳ございません。具体的にはどのような不具合が発生しているかお伺いしてもよろしいでしょうか?」
顧客:「スイッチを入れても反応がないんだよ。」
営業:「承知いたしました。〇〇の部分ですね。こちらで原因を確認し、交換または修理の手配を早急に進めます。いつ頃までに必要か、差し支えなければ教えていただけますか?」
顧客:「明後日までに使いたい。」
営業:「かしこまりました。最優先で対応いたします。進捗を本日中にご連絡差し上げます。」
ポイント
- まずは謝罪+具体的確認で落ち着いた印象を与える
- 「迅速に対応する姿勢」を明確にすることで、信頼を取り戻しやすい
- 「確認後に連絡」ではなく、「いつまでに連絡するか」を伝える
② 契約内容や料金に対する不満が出た場合
状況
顧客が「聞いていた話と違う」と感じ、トラブルに発展しかけているケース。
台本例
顧客:「話と違うじゃないか!追加料金がかかるなんて聞いてない!」
営業:「大変申し訳ありません。ご説明が不十分だったようでご不快な思いをさせてしまいました。念のため、どの部分のご説明が足りなかったと感じられたか、教えていただけますか?」
顧客:「サポート料が月額だなんて聞いてない。」
営業:「ご指摘ありがとうございます。契約書上の説明が不足していた点は、私の説明責任です。すぐに内容を整理し、改善策をまとめて改めてご説明させてください。」
ポイント
- 反論や弁明をせず、顧客の「感じ方」を尊重する言葉選びを心がける
- 「契約上では~」とルールを盾にするのは逆効果
- 「説明不足」「誤解を生んでしまった」など、共感+責任感を示すと印象が和らぐ
③ 納期遅延・対応の遅さに対するクレーム
状況
発注や納品のスケジュールが遅れ、顧客から不満が出たケース。
台本例
顧客:「なんでまだ届かないんだ?約束の期日を過ぎてるだろ!」
営業:「ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありません。〇月〇日にお届け予定でしたが、現在どの工程で遅れているのかを確認しております。現状では、〇日にお届けできる見込みです。」
顧客:「そんなの困るよ!」
営業:「おっしゃる通りです。今回の件でご迷惑をおかけした分、次回以降の納期管理を徹底いたします。今後このようなことが起きないよう、仕組みから見直します。」
ポイント
- 遅れた理由を説明する前に、まずは謝罪と現状共有
- 「確認中です」だけではなく、「いつ分かるのか」を伝える
- 再発防止の意思表示で、信頼を維持できる
④ 対応マナーや態度への不満
状況
電話や訪問時の態度、言葉遣いなどに関して苦情が来たケース。
台本例
顧客:「あなたの対応、ちょっと失礼じゃない?」
営業:「大変申し訳ありません。そのように感じさせてしまい、心からお詫び申し上げます。どのような点で不快に思われたか、お聞かせいただけますか?」
顧客:「説明の途中で話を切ったでしょ。」
営業:「ご指摘ありがとうございます。私の配慮が足りませんでした。今後はお客様のペースに合わせてご説明いたします。」
ポイント
- 「そんなつもりはなかった」と言い訳をしない
- 感情を否定せず受け止める姿勢が最も効果的
- 「次回から意識する点」を伝えて誠意を見せる
⑤ 上司や他部署への不満をぶつけられた場合
状況
自分の担当外の問題について顧客が怒っているケース。
台本例
顧客:「上司の対応が遅いんだよ!」
営業:「ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。〇〇の件につきまして、私から責任を持って確認し、対応いたします。進捗を本日中に共有いたしますので、少々お時間をいただけますでしょうか?」
顧客:「頼むよ、ちゃんと伝えてね。」
営業:「はい、必ず対応内容をお伝えいたします。ご指摘いただきありがとうございます。」
ポイント
- 「自分のせいではない」と切り離すのはNG
- “自分が窓口として動く”姿勢を見せることで信頼が生まれる
- フォローの一報を入れることで「責任感のある担当者」という印象を残せる
【まとめ表】状況別クレーム対応の台本比較
| クレームの種類 | キーワード | 目的 |
|---|---|---|
| 商品不具合 | 迅速・誠実・確認 | 早期解決で信頼回復 |
| 契約トラブル | 共感・説明責任 | 誤解の解消 |
| 納期遅延 | 謝罪・再発防止 | 安心感の再構築 |
| マナー問題 | 感情受容・姿勢改善 | 信頼の再定義 |
| 他部署不満 | 責任感・窓口一貫 | 信頼の維持 |
台本を丸暗記するよりも、状況を見極めて“感情→原因→行動”の順に対応する意識を持つことが、クレーム対応の本質です。
クレームを「信頼構築のチャンス」に変える営業思考
クレーム対応は、新人営業にとって最もストレスのかかる仕事ですが、
一方で、最も早く顧客との信頼関係を築ける仕事でもあります。
優秀な営業は例外なく、クレームを「関係を深める機会」として捉えています。
ここでは、クレーム対応を“チャンス”に変えるための営業マインドを解説します。
① 「怒りの裏には信頼の期待がある」と理解する
顧客が怒るのは、「期待を裏切られた」と感じているからです。
つまり、怒りの根本には“信頼していたからこそ裏切られた”という心理があります。
この視点を持つと、クレーム対応が単なる「謝罪」ではなく、
“再び信頼を取り戻すチャンス”に変わります。
たとえば、次のように考え方を転換します。
| 一般的な見方 | 営業的な見方 |
|---|---|
| クレーム=トラブル | クレーム=顧客の声(成長のヒント) |
| 怒る顧客=面倒 | 怒る顧客=改善のヒントをくれる人 |
| クレーム対応=謝罪業務 | クレーム対応=信頼構築の最短ルート |
この発想を持つだけで、心の余裕が生まれ、対応の質が劇的に変わります。
② クレームを「データ化」して自分の営業改善に活かす
クレーム対応の経験は、自分の営業スキルを磨く最高の教材です。
単に「大変だった」で終わらせず、データとして蓄積する習慣を持つと、成長スピードが上がります。
【クレーム分析テンプレート(例)】
| 項目 | 記入内容 |
|---|---|
| 発生日 | 10月27日(月) |
| クレーム内容 | 見積もりの説明不足 |
| 顧客の感情 | 不信感・不安 |
| 自分の対応 | 即時謝罪・再説明 |
| 結果 | 理解してもらい継続取引へ |
| 改善点 | 初回提案時に料金の内訳を明示する |
このように整理することで、「同じ失敗を二度しない」体制が作れます。
また、複数のクレームを分析すれば、自分の弱点パターンも見えてきます。
③ クレーム対応こそ“人間力”を見せる最大の場
営業における信頼は、「困った時にどれだけ誠実に動けるか」で決まります。
商談での提案力よりも、クレーム対応の姿勢の方が顧客の心に強く残るのです。
優秀な営業は、クレーム対応で次の3点を徹底しています。
- 迅速に動く(スピード)
→ 1時間以内の初動連絡で顧客の怒りを半減させる - 誠実に向き合う(姿勢)
→ 言い訳をせず、事実と感情を分けて受け止める - 最後まで責任を持つ(継続)
→ 「終わった」ではなく、「納得してもらうまで」対応する
この3点を守るだけで、「新人なのに安心できる人」という印象を与えられます。
④ クレーム対応後の“+αフォロー”が次の商談を生む
一度クレームを起こした顧客は、通常なら距離を置きたくなるものです。
しかし、対応後に誠意のあるフォローを行うと、再受注につながる確率が大幅に上がります。
フォローの具体例:
- 対応後1週間以内に「その後の使用感」を確認
- 定期的に「改善策の報告」や「新提案」を連絡
- 感謝の一言を添える(例:「貴重なご指摘をありがとうございました」)
このような一手間で、
「ただ謝る営業」から「信頼できるパートナー営業」へと印象が変わります。
クレームを“終わり”にするのではなく、“次の関係の始まり”に変える。
これが一流営業のクレーム対応思考です。
【まとめ表】クレームをチャンスに変える営業の行動指針
| 観点 | NG営業 | 成長する営業 |
|---|---|---|
| 捉え方 | クレーム=迷惑 | クレーム=信頼回復の機会 |
| 初動 | 上司任せ | 自分で動く |
| 言葉遣い | 言い訳・説明重視 | 共感+行動重視 |
| 学び方 | 忘れて終わり | 記録・分析して改善 |
| 結果 | 顧客離脱 | 関係深化・再契約 |
新人であっても、誠実な対応と分析力さえあれば、クレームを武器に変えられます。
「クレーム対応が得意な営業」は、間違いなく“数字を伸ばす営業”です。
まとめ 新人営業はクレーム対応で信頼を勝ち取る
クレーム対応は、多くの新人営業にとって「怖い」「苦手」と感じる領域ですが、
実はそれこそが営業として最も成長できる場面です。
トラブルの瞬間こそ、顧客はあなたの“人間力”を見ています。
本記事で紹介したポイントを振り返りましょう。
| 要点 | 内容 |
|---|---|
| クレームの本質 | 「期待を裏切られた」ことへの感情 |
| 正しい対応手順 | 傾聴 → 共感 → 原因確認 → 提案 → フォロー |
| NG行動 | 言い訳・形式的な謝罪・上司への丸投げ |
| 台本の活用法 | 状況ごとに“感情・原因・行動”を意識する |
| 成長のカギ | クレームをデータ化し、再発防止に活かす |
新人のうちは失敗しても構いません。
ただし、その失敗を次に活かす“振り返りと改善”を繰り返せるかどうかが、営業としての未来を決めます。
クレーム対応ができる営業は、どんな顧客にも信頼される営業です。
今日からは恐れず、堂々とクレームの現場に向き合ってください。
あなたの誠実な一言が、顧客の怒りを感謝に変える瞬間を必ず作ります。

